森口 泰孝 

このたび、公益社団法人日本工学教育協会(日工教)会長に就任いたしました。新型コロナウイルスの影響で、工学教育に関わっておられる大学、高等専門学校、企業を始め多くの方々は、大変なご苦労をされていると推察します。このような当面の課題から長期的視点に立った工学教育、技術者教育をはじめ教育全般について、個人会員の皆さま、法人会員の皆さまと様々な機会を通じて情報交換・議論を行い、日工教の立場から様々な支援を行っていく所存ですので、宜しくお願い致します。

1.工学教育の現状

工学教育のみならず、教育全般における現状の課題は、若手の教育者が年々減少するとともに、定年後のシニアの方々の経験を如何に若手に引き継いでいくかといった点にあります。また、大学等における教員評価の要素である研究、教育、貢献において、研究の評価が大きな割合を占める現状において、教育面での実績を如何に評価していくかも課題です。このような視点に立って、日工教として取り組んできた事業及び今後重点的に取り組んでいきたいと考えている課題をご紹介します。

2.工学教育に関わる情報発信・情報交換

(1)「工学教育」誌

工学教育に関わる論文掲載誌として重要な役割を担っており、大学における人事評価において大きな役割を果たすよう働きかけてまいります。また、会員の皆様の関心の高い特集を今後とも提供し、情報の共有を目指します。

(2)年次大会

毎年夏に開催される年次大会は、講演発表やポスターセッション等における参加者間の熱心なディスカッションなどを通じた人的ネットワークの構築に絶好の機会であり、更なる魅力度アップを目指して企画を提供していきます。特に、若い世代の参加者に対してアピールするテーマを企画していきます。今年度は、新型コロナウイルスの影響でオンラインでの開催となりますが、新たな取り組みとしての貴重な機会と考えています。

(3)表彰制度

①工学教育賞
我が国の工学教育ならびに技術者教育等に対する先導的、革新的な試みによって、その発展に多大な影響を与え貢献した業績を表彰するものです。文部科学大臣賞をはじめ5部門で表彰しています。咋年度から若手を対象とした奨励部門を新設しました。
②JSEE AWARD
長年に亘り本協会へ貢献頂いた方を表彰しています。

(4)調査研究活動

この目的に沿う活動としては、調査研究委員会(技術者倫理、エンジニアリング・デザイン、21世紀リベラルアーツなど)があります。今後は、新たに事業企画推進委員会を設置して、これらの活動を調査研究のレベルに留めず、その結果を会員の皆様と共有し、会員の皆様の教育活動に反映できるようにしていきます。

(5)情報交換の場の提供

日工教は、会員の皆様のニーズに沿う情報の提供と、これを促進する人的ネットワークの構築に努めます。会員に有益な情報としては、以下のように考えます。
(a)若手教員には、教育と研究の両面における相互研鑽のための情報
(b)学長、研究科長・学部長等には、教育機関の運営に資する情報
(c)シニアの方々には、その経験と知識を次世代に伝承し、教育に貢献する機会に関する情報
(d)賛助会員/企業会員には企業内技術者教育についての課題解決法や新しい教育手法についての情報

3.教育士制度の充実

キャッチフレーズ「研究力は博士、技術力は技術士、教育力は教育士」のもとに、2005年から工学教育力を評価・認定する教育士(工学・技術)資格制度を推進し、延べ約1000人の教育士を認定してきました。本資格制度を定着させるため、このような資格があることをより社会に浸透させ、評価の透明性・客観性の向上を図り、さらに資格保有者が資格を継続して維持向上することを支援するツールの提供を図ります。また、教育士の資格をお持ちの企業の方が、大学や高等専門学校等において企業経験を活かした教育の機会が促進されるよう関係者に働きかけて参ります。

4.国際化

新型コロナウイルスの影響で、これまで進めてきた国際化の流れが大きく停滞していますが、これを乗り越えた先には、教育のグローバル化が進み、世界の教育市場がひとつになり、教育機関が国籍を問わず協調もしくは競争する時代が到来します。このため、各国の教育機関との交流を通じて、教育手段のブラッシュアップを図ることが重要であり、日工教として、以下の2項目を推進します。

(1)海外からの情報入手

年次大会にはInternational Sessionがあり、国際交流の場を設けていますが、海外からの発表件数の更なる拡充に取り組みます。また「工学教育」誌の英文記事についても更なる拡充を目指します。

(2)海外への情報発信

米国、欧州、アジアを始めとする海外工学教育関連団体との連携を深め、国際会議での日工教会員の活躍にむけて支援をして参ります。

5.ダイバーシティ

多様性はあらゆる分野で必須の課題です。日工教においても、国籍、職業、性別、宗教等の異なる人材が適切な割合で会員となることが望ましいのですが、現在のところ、その約91%が日本人男性です。また約96%が教員です。本会は、定款に記載される通り、我が国の工学教育の振興と産業の発展に寄与することを目的としています。したがって、更なる多様性を目指し、とりわけ、女性会員の増加を図っていきます.併せて、企業会員の増加にも取り組みます。

6.地区工教との連携強化

日工教と地区工教はそれぞれの役割分担のもと、我が国の工学教育の一層の充実発展を目指して、連携を強化していくことが重要です。このため、地区工教事務局連絡会議や様々な共同事業を更に充実して参ります。

7.会員向け情報提供基盤の整備

会員向けサービス提供基盤として、日工教ホームページの充実強化を図ります。

日工教は、2年後に設立70周年を迎えます。日工教の更なる魅力度アップを目指して、新会長として全力で取り組んで参りますので、皆さま方のご支援のほど宜しくお願い致します。

会長経歴

1976年 3月  東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1976年 4月  科学技術庁入庁
2005年 7月  文部科学省研究開発局長
2007年 1月  文部科学省科学技術・学術政策局長
2008年 7月  文部科学省大臣官房長
2012年 1月  文部科学事務次官
2014年 1月  東京理科大学副学長
2020年 6月  日本工学教育協会会長

 

 

2021年新年会長挨拶(「工学教育」誌 69巻1号 工教言より)

新年,明けましておめでとうございます.会員の皆さまにおかれましては,良いお正月を迎えられたこととお慶び申し上げます.昨年は,新型コロナウイルス対応一色と言っても過言でない1年でした.私自身,昨年6月に会長に就任して以来,皆さま方とお会いして意見交換をしようと考えておりましたが,東京からの出張もままならず,大変残念に思っています.日本工学教育協会(日工教)最大の行事のひとつである年次大会もオンラインでの開催となりました.

本年も新型コロナウイルスへの対応が続きますが,高専,大学,企業の教育と新型コロナウイルス対応との共存を図っていくことも重要ですので,関係者一同連携を図りながら,心をひとつにして頑張りましょう.

日工教は2022年に,創立70年を迎えます.少子高齢化が進む我が国において,工学を目指す若者や若手教員の確保とシニアパワーの活用は,喫緊の課題です.日工教は,「工学教育」誌の刊行,年次大会の開催,工学教育賞・JSEE AWARD の顕彰,教育士資格認定,調査研究活動,会員間の情報交換の場の提供,ダイバーシティの促進,工学教育の国際化など様々な活動を行っています.今後とも,地区工教との連携のもと頑張って参りますので,宜しくお願い致します.

昨年の日工教の活動の一端として,第68回年次大会をご紹介します.昨年は,北海道工学教育協会との共催で実施しました.「人をつくる・未来をつくる− Society 5.0に向けた工学系人材育成」をテーマに,真に豊かで幸福な未来を実現するための工学系人材育成および工学教育のあり方について考えることとしました.新型コロナウイルスによる様々な影響に鑑み,オンラインでの開催となりました.

初めてのオンラインでの開催を運営いただいた北海道大学の皆さまには,ひとかたならぬご尽力を賜り,改めて御礼申し上げます.

特別講演Ⅰでは,北海道大学産学・地域協働推進機構土屋努客員教授によるご講演「社会,経済的な変遷から導く日本の工学未来の行方」を頂き,特別講演Ⅱでは,文部科学省,経済産業省,アメリカ工学教育協会,韓国工学教育学会からご講演を賜りました.また,特別企画として工学部長・学長等会議を開催し「不確実性の時代の工学教育−何のための技術者教育か」をテーマに熱心な議論が交わされました.この他,国際セッション,シンポジウムを始めとする数多くのセッション,企業展示などが開催されました.遠隔地からの参加も容易になるなどオンラインのメリットを活かした大会になったと考えています.

本年の日工教の活動ですが,やはり新型コロナウイルスに対する高専,大学等の対応についての情報交換が,第一に挙げられます.遠隔教育と対面教育をいかに組み合わせていくか,その際の課題は何か,コロナ収束後において,以前の教育形態に逆戻りするのではなく,コロナ対応の経験をどのように活かしていくかなどについて,会員間で議論を重ねていきたいと考えています.また,新型コロナウイルスの工学教育への影響は,日本のみならず世界各国で重要な課題となっていますので,各国の工学教育協会等との情報交換・連携も進めていきたいと考えています.

本年は,学校会員,企業会員の皆様への訪問による意見交換は難しい状況にありますが,オンラインでの会合を活用したいと思います.本協会の魅力度向上に本年も全力で取り組んで参りますので,ご支援の程宜しくお願い致します.